すべての奇譚は、ひとつの世界で起きている。昭和から現代へ――この世界に刻まれた事件の記録。灯はまだ少ない。語られるたび、増えていく。
飲屋街の駐車場に、音もなく立っていた白いワンピースの女。道を訊かれた僕の前に、兄貴が横から腕を出した。その夏、僧はその女を「黒竜人」と呼んだ。
記録を読む →海に近い町の無人駅。駅前の店では、旧道への道を聞かれても、教えない。
記録を読む →士郎の店に毎日座っている常連が、京介のもとへ送られてくる。その人が連れてきたという男の脈を、京介は診た。速くも遅くもない。息を吸っても、止めても、変わらない。
記録を読む →関西ではない大きな街。毎晩二時に、同じ角で手を上げる老人がいた。
記録を読む →泉京介の憂鬱は、一巻ここまで。次の記録は、まだ書かれていない。寄せられた奇譚のうち正史に昇格したものも、この年表に刻まれていく。