依代師ユニバース――すべての奇譚が起きている、ひとつの世界の設定書。ここに記されたことは、この庫の「正史」である。
依代(よりしろ)とは、霊が宿る器のこと。依代師は、鍼を手に、自らの身体そのものを依代として邪を引き受け、祓う者たちである。その系譜は現代日本にひっそりと続いており、裏高野の僧の系譜とも、どこかで糸がつながっているという。
依代師は、看板を出さない。表向きは、町の鍼灸師であったりする。人の体の調子を指で読む仕事は、そのまま、人ならざるものの気配を読む仕事と、地続きだからだ。
この世界では、怪異を「実話か創作か」では分けない。陰と陽の釣り合いがどう崩れたか、その成り立ちで四つに分ける。
壱ノ型「憑」――陰が、陽(生者)に入り込む。憑依、取り憑き、連れ帰り。
弐ノ型「祟」――陰が、祓われず滞る。土地と血脈に沈み、世代を越えて巡る怨。
参ノ型「人」――陽(生身)に、陰が潜む。怪異よりも怖い、人間そのもの。
肆ノ型「気」――陰陽の均衡そのものが、乱れる。説明のつかぬ不調と気配。施術家だけが指先で触れる、身体の異界。
依代師が邪を引き受けるたび、その身体には、温度のない一点が残る。冷えた穴と呼ばれる。
それが、この世界のきまりだ。依代師の身体には、祓った数だけ、冷えた穴が増えていく。――ただし。もし、塞がる一点が、ただひとつ、どこかにあるとしたら。それを探した者が、いなかったとは、言い切れない。
金龍鍼(こんりゅうしん)。先が丸く、刺さらない、古いかたちの鍼。純金でできており、泉の家に代々受け継がれてきた一本である。普段の施術には使わない。この鍼の出番は、人の体が、人ならざる何かを語りはじめたときだけだ。
健やかな人にかざせば、金は何も語らず、ただ静かにそこにある。けれど、注ぐべき熱を根こそぎ持っていかれた体にかざしたとき――金は、すっと、冷たくなる。
自称・永遠の二十五歳。よく笑い、よく喋り、よく食べる。患者の体に溜まった重たいものを、我が身に吸い取ってしまう体質。だから波が触れると患者は軽くなり、そのかわり、波があとで咳をする。師である京介のことが、好きすぎる。
駅前で古い喫茶店を営む、京介の長いつきあいの男。店に来る客の様子から、時折、京介のもとへ人を送る。士郎が「なんでもない」と言うときは、たいてい何かある。けれど士郎は言わないし、京介も聞かない。それが二人の流儀。