‹ 蒐集庫へ戻る
依代集
CANON

聖典

依代師ユニバース――すべての奇譚が起きている、ひとつの世界の設定書。ここに記されたことは、この庫の「正史」である。

依代師とは 祟りの型 冷えた穴 金龍鍼と泉の家 人物名鑑

依代師とは

― 自らの身体を、依代とする者 ―

依代(よりしろ)とは、霊が宿る器のこと。依代師は、鍼を手に、自らの身体そのものを依代として邪を引き受け、祓う者たちである。その系譜は現代日本にひっそりと続いており、裏高野の僧の系譜とも、どこかで糸がつながっているという。

依代師は、看板を出さない。表向きは、町の鍼灸師であったりする。人の体の調子を指で読む仕事は、そのまま、人ならざるものの気配を読む仕事と、地続きだからだ。

祟りの型

― 怪異とは、陰陽の均衡が崩れた状態である ―

この世界では、怪異を「実話か創作か」では分けない。陰と陽の釣り合いがどう崩れたか、その成り立ちで四つに分ける。

壱ノ型「憑」――陰が、陽(生者)に入り込む。憑依、取り憑き、連れ帰り。
弐ノ型「祟」――陰が、祓われず滞る。土地と血脈に沈み、世代を越えて巡る怨。
参ノ型「人」――陽(生身)に、陰が潜む。怪異よりも怖い、人間そのもの。
肆ノ型「気」――陰陽の均衡そのものが、乱れる。説明のつかぬ不調と気配。施術家だけが指先で触れる、身体の異界。

冷えた穴

― 邪を引き受けた身体に、残るもの ―

依代師が邪を引き受けるたび、その身体には、温度のない一点が残る。冷えた穴と呼ばれる。

冷えた穴は、塞がらない。
一度できれば、もう、温まらない。
温灸をしても、湯につかっても、びくともしない。
何にも反応しない、死んだ一点である。

それが、この世界のきまりだ。依代師の身体には、祓った数だけ、冷えた穴が増えていく。――ただし。もし、塞がる一点が、ただひとつ、どこかにあるとしたら。それを探した者が、いなかったとは、言い切れない。

金龍鍼と泉の家

― 人ならざるものだけが、金を冷やす ―

金龍鍼(こんりゅうしん)。先が丸く、刺さらない、古いかたちの鍼。純金でできており、泉の家に代々受け継がれてきた一本である。普段の施術には使わない。この鍼の出番は、人の体が、人ならざる何かを語りはじめたときだけだ。

健やかな人にかざせば、金は何も語らず、ただ静かにそこにある。けれど、注ぐべき熱を根こそぎ持っていかれた体にかざしたとき――金は、すっと、冷たくなる。

人物名鑑

― 「困ったもの」を持って生まれた者たち ―

泉 京介いずみ きょうすけ / 依代師

四十二歳。町の鍼灸師。指先で人の体を読むが、それ以上のものまで読めてしまう。左目は義眼で、光をうまく拾わない。その理由を、めったに話さない。邪を引き受けた身体には、冷えた穴が増えていく。連載「泉京介の憂鬱」の主人公。

なみ / 弟子

自称・永遠の二十五歳。よく笑い、よく喋り、よく食べる。患者の体に溜まった重たいものを、我が身に吸い取ってしまう体質。だから波が触れると患者は軽くなり、そのかわり、波があとで咳をする。師である京介のことが、好きすぎる。

龍之介りゅうのすけ / 弟子

波とは何もかも違う、寡黙な弟子。人の体の輪郭にうっすら滲む「色」が視える。元気な人は濃く、疲れている人は薄い。本人も気づかない心の濁りを、色で先に視てしまう。視えるのに、まだ何もできない。それがこの子の苛立ちである。

士郎しろう / 喫茶店主

駅前で古い喫茶店を営む、京介の長いつきあいの男。店に来る客の様子から、時折、京介のもとへ人を送る。士郎が「なんでもない」と言うときは、たいてい何かある。けれど士郎は言わないし、京介も聞かない。それが二人の流儀。

泉 仁いずみ じん / 京介の兄

京介より五つ上の兄。――消えた。いまは、古い桐箱だけが、院の奥の引き出しに残されている。その先のことは、京介自身、まだうまく言葉にできない。

連載「泉京介の憂鬱」を読む